現代日本語研究においては、「待遇表現」の枠の中の用語として使われる。待遇表現とは、話者が示す気の回し方を言語表現化したもので、その点で英語研究におけるポライトネスpolitenessと重なるので、英語としてはpolitenessと記した。待遇表現は、聞き手や話題の人物をどのように扱うかという概念だから、相手を見下すような言語事実も扱う。「軽卑語・卑罵表現」などと称される言葉である。

敬語は、話題の中の人物に対する待遇として尊敬（語）と謙譲（語）、聞き手に対する待遇として丁寧（語）の三つに分けられてきた。2007年の「敬語の指針《外部リンク》」では、「（１）尊敬語（２）謙譲語Ⅰ（３）謙譲語Ⅱ（丁重語）（４）丁寧語（５）美化語」の５分類案が示されている。動詞述語では人称と関係が深いことが知られている。

５つの敬語は、おおよそ次のように説明できる。

• 尊敬語：「先生が海外へいらっしゃる。」のように、動作者を「立てる」敬語。
• 謙譲語Ⅰ：「山田が要件を鈴木校長にご説明しました。」（聞き手＝佐藤先生）のように、動作者（山田）の行為を低めて、話題の人物（鈴木校長）を「立てる」敬語（「ました」は丁寧語＝佐藤先生を尊重）。
• 謙譲語Ⅱ（丁重語）：「佐藤先生に山田が要件を説明いたしました。」（聞き手＝鈴木校長）のように、動作者（山田）の行為を低めて、聞き手（鈴木校長）を「立てる」敬語（「ました」は丁寧語＝鈴木校長を尊重）。
  （参考：蒲谷宏「謙譲語Ⅰと謙譲語Ⅱ（丁重語）の違い」《外部リンク》）
• 丁寧語：「明日は十日です。」のように、聞き手を尊重してものごとを丁寧に述べる敬語。
• 美化語：「お酒をお飲みになりますか。」「私からご挨拶を申し上げます。」など、ものごとを美化して述べる敬語。

注意しなければならないのは、それぞれの対象に対して敬意がアル／ナイといった、心の持ち方によって言語表現を選ぶというよりも、社会的役割によって、場面ごとに敬語表現が要求されるという点である。個人的には尊敬していなくても、先生との会話で敬語を使う必要があるのは、先生と生徒という社会的役割を確認するためである。喧嘩を売る場面において敬語が使われないのは、関係の破棄を示すためである。