正書法 orthography


それぞれの言語における「正しい」書き方。科学では使われない「正しい」という語が冠されている点で、日本語学や言語学の対象というよりは、社会的な規範という意味合いが強い。

ただし、世間一般においては大いに関心が持たれる分野である。それに対して、日本語学・言語学からは、「表音主義」と「伝統主義」という整理観点を提供している。表音主義は、現行言語の発音を基準に書き方を定める立場で、伝統主義は、ある一定の時期(平安時代や18世紀英語など)の書き方を規範として採用する立場である。小学校などの初等教育の点からは、今話している言語を基とする表音主義的な正書法が推奨されるが、長い書記伝統を持ち、多くの書き言葉遺産(古典)を継承する立場からは、伝統主義的な正書法が推奨される。

そもそも教育には、それまでの社会遺産を継承するという側面があるため、伝統主義は教育に沿ったものとさえ言える。漢字を廃止し、ひらがなやカタカナ、あるいはローマ字で日本語を書くことにした場合、現在のさまざまな文書(新聞、雑誌、映画の字幕や行政文書など)がそのままでは使えなくなる。それによって過去の伝統と断絶することを、その社会(日本の人々)がどの程度許容できるかである。過去の例を見ても、急激な文字変革は可能だが、大きな社会的混乱も伴う。

一般に、表音主義的に表記を導入し(書記伝統がないため)、それが年月を経て伝統主義になる(書き方が固定される)と言える。その場合問題になるのは、表音文字の方である。「学校へ行く」と書いた場合、問題とされるのは助詞/エ/を「へ」と書くか「え」と書くかである。したがって、日本語で議論されるのは、仮名の書き表し方ということになる。それを「仮名遣い」という。なお、表語文字である漢字では、どんな字体を使うかが問題となる(新字体・旧字体など)。

〔正書法の二つの立場〕
正書法


inserted by FC2 system