意志動詞・無意志動詞 volitional / non-volitional verb

意志動詞とは、意志を示せる動詞である。意志を示すとは、命令・意志のモダリティを持つということである。「走る」は、「走れ・走ろう」と語形を変えることで、命令・意志(勧誘)の意味を示せる。それに対して、無意志動詞には意志がなく、命令・意志を示すことがない。例を挙げると、「流れる」は、命令形「流れろ」、意志形「流れよう」と語形を作ることができる。しかし、「流れろ」は、〈流れてほしい〉という願望ではあり得ても、水等に対して命令することができない。それは、流れる主体である水等が意志を持たないからである。

以上の説明で示したように、意志動詞・無意志動詞の区別は、動詞が命令・意志(勧誘)のモダリティを持つかどうかに関わる動詞分類である。

*「流れろ」「流れよう」という表現が絶対に意志を表さないということではない。「流れる」の命令の例としては、フィリップ・K・ディック『流れよ我が涙、と警官は言った(原題 Flow My Tears, the Policeman Said)』がある。アンドロイドとして感情を持たない主人公が、人間のように感情を持ちたいと思う心から言う言葉である。心情は分かるにしても、命令ではない。また「流れよう」と言った場合、その意味は「流れていこう」ということであろう。柴咲コウ作詞の「ゆくゆくは」という歌に、「風になってゆこう/空になってゆこう/流れよう ときには流れよう/流れていって/軽くなってゆこう/流れよう きみの中へ...」という歌詞がある。「流れよう」の前後に「ゆこう」があり、後半部分では「流れてゆこう/空になってゆこう/流れよう ときには流れよう」とあるように、「流れよう」は「流れてゆこう」の意味と言える。「行く・ゆく」は意志動詞だから、その複合語「流れてゆく」も、命令・意志が可能である。


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