共時態 synchronic


言語を体系として捉えた用語。言語構造を解明しようとする近代言語学の基本的立場であり、ソシュールが用いた用語。19世紀言語学が、比較言語学と称される言語の歴史的側面の学であったことを反省し、言語を歴史から切り離して研究しようとする立場を表す。私たちが獲得する言語は、過去の言語を知っているわけではなく、歴史から切り離された現在の言語である。ソシュールは、言語がそうした非歴史的存在だと考えた。歴史的側面である通時態と対になった用語である。なお「共時態」は現代語のことではなく、それぞれの時代の言語を指すから、「平安期という共時態」のようにも使う。

例えば、「行こう」という表現は、歴史的に「行かむ>行かう>行こう」と経過して成立した。そこで現代語の「行こう」の意味を、助動詞「む」に溯って「推量、未来形」とすることは、現代語の「行こう」が「意志形」であることと結びつかない。過去の意味や歴史的変化は参考になるが、過去の意味を現代語に適用してはならないことを明示した捉え方である。共時態(例えば現代)の意味・機能を、通時態(例えば淵源)の意味・機能で説明するのは誤りである。「大学」(社会機構)の存在意義を、その成立に溯って説明することは、現代の「大学」のあり方に対する疑問の提示ではあり得るが、現代の「大学」の果たすべき役割を説明することにはならない。

共時態・通時態図


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